
大ピンチ発生!
一体どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
降り続ける雨は弱まるどころかいよいよ本降りとなり、「苦しみに負けず努力をする者には、勝利という栄冠が訪れる」という少年マンガ的展開を望む私の希望を無残にも呑みこんでいった。
後で聞いた話であるが、このころの頂上付近は雨雲にすっぽりと覆い隠されており、私たちはその雨雲の中を歩いていたらしい。そりゃー霧で何も見えなくなるわなー。
「雲の中を探検する」言葉だけを見るとロマンチックに感じるが、実際に探検してみるとそんなものとはまったく無縁の、単なる荒行である。
体内自然度100%! とでも書けば聞こえはいいが、このとき吹きすさぶ風の音が私には
「オマエに富士山は登れない、もう諦めな、ケケケ」
と自然の神様が私をあざ笑うような声に聴こえていた。
なぜだ?
努力する者に勝利が訪れるのは少年マンガのお約束ではなかったのか? それとも私の努力が足りないとでも言うのか!?
いや、よく考えれば少年マンガのキーワードって「努力」「勝利」に「友情」も入っていたはず。振り返ってみれば今回の登山、「友情」をムチャクチャ否定した企画だったよね(泣)。
元来用意周到な私はこんな事態も想定して、防水スプレー完備の上で雨ガッパをフル装備してきた。
しかし、富士山の雨は死ぬほど危ないと至るところで語られているほど過酷なものである。それでなくても麓では記録的な大雨に悩まされている時期だ。
それほどの大雨を前にしては、私が準備した雨ガッパなどFFのアーマーガッパ並みの防御力しか示してくれないのであった。カッパ化すれば守備力が大幅に向上するかもしれないが、あいにく私はカッパーの呪文を使えないのでそれは諦めることにした。
ふと周りを見ると、ツアーで登っている登山客たちがバタバタと倒れているのが目に入った。
高山病、寒さ、疲労、これらが原因となって力尽き倒れてしまったのであろう。
だが、
こんな天気ならツアー中止するのがフツーじゃないか? しかも年齢層見るとどう見ても登れなさそうな連中ばっかだろ!
*その時のツアー客は大半がじーさんばーさんだった
かくて地獄絵図のような様相を呈してきた富士山登山であったが、ここに来てさらなる災難が私を襲った。
山小屋を出発してから二時間あまり、それは前触れもなく突然やってきた。
ヘッドライト消えたー(泣)
これはドラクエで例えると、洞窟の中でレミーラの呪文が切れてしまったのと同じくらいのピンチである。
今どきのドラクエユーザーがレミーラの呪文を知っているか心配であるところだが、本当に心配なのはもちろんそんなことではない。

それまでも手の届く範囲くらいしか明るくはならなかったが、それが消えてしまうことであたりは完全な暗闇と化してしまった。
どれくらいの暗さかといえば、すぐ近くにいるであろう登山客から私の姿がまったく認識されず、逆に私の側からすぐ近くにいるはずの登山客を見てもヘッドライトの灯りしか見えないのである。
その時の私には側を通過する登山客のヘッドライトが人魂の群れのように見えた。肝試しには申し分ない状況といえるであろう。
幸いなことに予備の電池は持ってきていた。私は登山道の横でリュックを開けてライトの電池交換を始めた。
もしこれでダメだったら、ドラクエのダンジョン並に危険な富士山の山道を、レミーラの呪文、じゃなかった、ヘッドライトの灯りなしで登ることになってしまう。
ドラクエの場合なら崖から足を踏み外してもせいぜいフィールドマップに戻されるくらいで済むであろうが、現実の世界で崖から足を滑らせたらほぼ間違いなく命を失うであろう。
その時はリレミトかルーラを使ってここから脱出したいが、あいにく今の私はマジックパワーがゼロの状態でありそれすらも適わず、なす術もないままその場に立ちつくして朝を迎える前に凍死しているであろう。
電池交換が終わり、意を決してスイッチをオンにする。
頼む、ついてくれ。
......
あれ、そんなバカな?
嘘だ、嘘だ、そんなの嘘だ。嘘だといってよバーニィ。
実は電池が逆向きでしたというネタじゃないのかよー!
なーんてね、
本当はタダのネタでした(←死ね)
いや、何かさ、こうやってネタ盛りこんだほうが話として面白くなるかなと思って、つい。
お騒がせしてたいへん申し訳ありませんm(_)m
よかった、無事に灯りがついてくれた。これで凍死することも転落死することもなく登山を続けられそうである。
しかし、もしスペアの電池持ってきてなかったら、あるいはホントに電池交換失敗してたら、冗談抜きで死んでいたかもしれないと本気で思う。
山登りの死亡事故ってこういう形で起こるんだなってことを実感した一幕でありました。