大波乱の出発



そもそも今回の旅行は出発からツイていなかった。
前回のベトナム旅行から一ヶ月も経たないうちに「韓国行ってきまーす」なんて言ってる(北朝鮮へ行くなんて言うと騒ぎが大きくなるから周りにはこう言っていた。まぁウソはついてないと思う)もんだから、周りからは「オマエはお気楽でいいね、はーぁ」などとたいそうなやっかみを受けた。まぁもっともなことではあるが。

しかし周囲の眼など気にしていてはいけない。たとえ周りにどう思われようともオレは北朝鮮へ行かなくてはならないのである(ホントか?)
かくてしてまだゴールデンウィーク前である2008年4月23日、みんなが一生懸命働いている中ひとり仕事をほっ放り出して(こうした態度が周囲の反感を助長させる原因になっている)韓国はソウルへ向けて旅立とうとした。

が、ここでトラブルが発生した。成田へ向かう途中、オレの乗ろうとした電車が人身事故で止まってしまったのである。
これはオレの韓国行きを妬んだ誰かの呪いか? オレは真剣にそう疑った。
時はすでに、飛行機出発の二時間前。
この時点でオレは、今回の韓国行きを半分あきらめた。

成田に着いた時、搭乗手続きが終了する10分前だった。
空港に着くや10キロ近くのバックパックを背負って一気に4階まで駆け上がる。
なんとか無事に搭乗手続きを済ませたとき、時計は終了時刻の3分前をまわっていた。
それにしてもこれだけ走ったのは久しぶりだ。ウゲー、気持ち悪い。
息切れが止まらず苦しんでいたので、出国審査で前に並んでいたカップルに気持ち悪がられて逃げられたほどだ。

それでもオレは、なんとかソウル行きの飛行機に搭乗することができた。
飛行機に乗ってしまえばこっちのものである。いくら周りに何されようとも、もはやオレの韓国行きを止められる者は誰もいない。
頑張れー、オレ。周囲の呪詛なんかに負けるなー!

日本出発から二時間半後、飛行機はソウル仁川国際空港に到着した。
さすが韓国はアジア有数の先進国と言われているだけあって、日本と変わらないくらい治安が良い。
インドベトナムなど、真夜中に入国すると客引きやインチキどもに襲われることがアジア旅行の風物詩であるが、ここ韓国では同じく真夜中であってもそんな危険にあう心配はまったく感じられない。

今晩宿泊するゲストハウスへ向かうため、ソウル駅でタクシーに乗ることにした。
「アンニョンハセヨー。(住所を見せて)ヨギカジュセヨ(ここへ行ってね)」
「オーケー、大学路へ行くんだな」
「ノーノー、大学路じゃなくて、明倫洞の1番街へ行って」
「だから大学路へ行けばいいんだろ。明倫洞とは大学路とイコールだ」
「あ、そう、そりゃ失礼。じゃ、お願いしまーす」


韓国ではほかのアジアの国、例えばベトナムみたいに、事前に料金交渉をしないとボッタくられるなどということはなく、タクシーの運転手が自発的にメーターを回してくれるので安心である。
しかもオレがこのとき乗ったタクシーは模範タクシーといって、厳しい国家試験をパスして選ばれた、エリート中のエリートである。
つまりこれは何を意味するかというと、オレは何ひとつ心配することなく目的地へ到着するのを待っているだけでよいのである。
あぁ、海外でこんな安心した旅が送れるなんて、バチが当たらないかしら(感涙)。
と思っている間にどうやら着いたようだ。

「さ、着いたぞ。ここが大学路駅だ」
「ハァ(゚Д゚)!? オレは駅じゃなくてゲストハウスに行きたいんだけど」
「なんだ、それならはじめにそう言えよ」
「言っただろうが!!」
「まぁ落ち着け、とにかくお前が行きたいところをもう一度言ってみろ」
「じゃあもう一回だけ言うね。明倫洞1街の...」
「明倫洞1街ー!? どこだそれ?」


おのれは住所聞いて場所が分からんのか!?
それでもタクシードライバーか? それでも模範ドライバーか!?
どうして外国でタクシー乗るといつもこうなるんだよー!!


「うーん困ったな。そうだ、ゲストハウスの人に電話してみよう」
そう言って模範タクシーの運ちゃんは、ゲストハウスの人に電話で場所を聞いてみることにした。

彼らはハングル語で何やらいろいろと話しこんでいた。
オレはハングル語がよく分からないので話の中身は理解できないが、なんとなく分かる範囲で想像すると、模範タクシーの運ちゃんはゲストハウスのおかみさんと口論をして、その後、怒ったおかみさんに着信拒否をされてしまったようである。
「ダメだ、さっぱり分からねぇ、ったく使えねぇな、あの糞ババァ」
運ちゃんはそうオレに吐き捨ててきた。
オレはハングル語がよく分からないので話の中身は理解できないが、なんとなく分かる範囲で想像すると、悪いのは十中八九、模範タクシーの運ちゃんだと思う。

途方に暮れたオレたちはソウルの警察に道を尋ねることにした。
さすがに警察の人たちは話の分かる、そして住所から場所の分かる人たちらしく、オレがゲストハウスの住所を説明すると、地図を見せて丁寧に説明してくれた。
「ここを真っすぐ行って3番目、3番目の交差点を左に曲がるんだ、いいな」

「ホワット(゚Д゚)!?、なに言ってやがる! 意味分かんねぇよコノヤロー!!」
警察官の分かりやすい説明に対して、突然となりから理解不能の叫び声が聞こえた。振り返って声の主を確認してみると、それは他でもない、模範タクシーの運ちゃんだった。

アンタ地図見ても場所分からんのか!?
よくそれで今までタクシードライバーやって来れたな。
つーかそれ以前に、お前本当に模範タクシードライバーか!?

地図も読めないタクシードライバーを見てオレは理解した。
このオッサンに住所だけ説明して目的地へ辿り着こうとした自分の行為が、どれだけ愚かしいことであったかということを(号泣)。

ちなみにゲストハウスのおかみさんや警察に場所を尋ねたりしている間、タクシーの運賃はしっかりと加算されていた。
その結果、初期料金5000ウォンのタクシー料金は、目的地に着くころには25000ウォンまで加算されていた。
「いっぱい迷ったから」と5000ウォンまけてくれたのは模範タクシードライバーである彼の、せめてものプライドであろうが、もし彼が住所だけで場所を分かっていれば10000ウォンで済んでいたのである。
それを考えると、もう5000ウォンくらいまけてもバチはあたらないと思うのは、オレだけであろうか。



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