![]() ついにリタイアする |
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あたらしい朝がきた 希望の朝だ ここが日本であればこんな歌も歌えることであろう。しかし、残念ながらここは日本ではなくモンゴルである。 誰も気づかないだろうから補足すると、実はこのネタ、前回のインド旅行記で使った出だしと同じである。 今回の場合、希望の朝を迎えているのが誰であるかは不明であるが、昨日より15キロも長い60キロの距離を走らされることを知らされた今のオレには、少なくとも希望など持てそうにない。 あぁ、どうしてこんな国なんかに来てしまったんだろう。 いっそ何もせずこのまま日本へ帰りたい... は、いったい何を考えているのだオレは? せっかく目の前に素晴らしい大自然が広がっているというのに、何も楽しまないで帰るなんてもったいないじゃないか? そう思いなおしたオレは、馬の鞍にまたがり辺りの景色を確認してみた。 ![]() 不思議だ。あれほど疲れていたというのに、この景色を見るとそれが癒され、遠くを目指したいという気持ちになってくる。 先人たちも同じような気持ちで草原の果てを目指し、あの歴史に残る大帝国を築きあげたのだろうか? あるいは、この大草原に眠るモンゴル帝国の先人たちが、オレに乗り移り活力を与えているのかもしれない... と思えたのも、初めの一時間だけだった。 うぎゃ〜〜〜、腕、膝、腰痛えぇーーー! ムリ、ムリ、これ以上は絶対ムリー!! すいませーん、今どのくらいまで来たんですかー? 「あー、もう15キロまで来たよー」 なんだ、意外に遠くまで来てるじゃないか...て さっき聞いたら一時間で5キロしか進んでなかっただろ。どうして30分で10キロも進んでいるんだ! 小学生でも分かるような嘘つくんじゃねぇーーーーー!! 「あー、こりゃ降ってくるかもなー」 「えー、さっきまで晴れてたじゃないですかー?」 どうやらモンゴルの天気は日本人の女心と同じくらい気まぐれらしく、先を読むということが困難である。ついさっきまで雲ひとつなかった青空が気づけば鉛色の雨雲に覆われ、オレの身体には雨滴がぽたぽたと落ち始めてきた。 「よし、本降りになる前に急ぐぞ」 「えー、もうオレそんな体力残ってないんですけど」 「だらしないヤツだな。それ、走れ」 すでに体力が限界にきていたオレは馬を走らせるだけの力が残ってなかったため、遊牧民のお兄さんに助けてもらい先を急ぐことにした。 自力で馬を走らせることすらできず、なすがままに任せて馬の背中で揺られるオレ。 ひとつ自分に質問したい。ここまでして乗馬を続ける意味があるのか? 不幸なことにオレ達の不安が的中して雨が強くなりだした。 モンゴルの草原はあたりに何もない。それ故にすばらしい景色が眺められるのだが、逆に雨など降り出したりすると、その勢いを遮るものがないため、旅行者たちに容赦なく襲いかかってくる。 激しい音をたてて降りかかってくる雨は、まるで雹でも降ってきたかと錯覚するほどの強さであった。 遠くでは雷の音が鳴りひびき、馬がそれに怯えて先へ進もうとしない。 オレの頭には嵐の中で登った、昨年の富士山の悪夢が思い出されてきた。しかし、当時とは違い今のオレは雨具をまったく用意していない。 「おい、このままだったら凍死するぞ、早く走れ!」 これだけ危機的な状況だと人は誰でも必死になるらしい。 雷に怯えて動かない馬を叱り飛ばし、まだこんな力が残っていたのかというほどの力をこめて馬の腹を蹴っ飛ばす。 こうして三十分ほど経ったか、遠くにプーチーさんの車が見えてきた。 よかった、助かった。全身から力が抜けて安堵の思いが湧き上がる。 とその時、乗っていた馬が急に足を止めだした。 ![]() こんな時になに呑気に川の水なんか飲んでんだ。水ならイヤっていうほど降ってる雨飲みゃいいだろ! こっちは雨に濡れて大変なんだ!! さっさと走れこのクソ馬が〜〜〜 !!! お馬さんの水分補給も終わり休憩地点へ無事到着。 「どうだい、まだやるかい」 との問いかけに 「いや、もういいです」 と即答。 乗馬二日目、残り五キロを残してついにリタイア。 |