悪路を越えて




朝、部屋の寒さで目が覚める。
外へ出ると鉛色の雲が広がっており、遠くからは悲しげな馬のいななきが聞こえてくる。
気づけば空から雨が降り始めてきた。
どうやら今日の乗馬はお預けである。


この日はじめて気づいたことだが、モンゴルの草原は道路の舗装が行き届いていない。道なき道をひたすら進んでいく。こんな悪路で車を走らせオレたちの荷物を運んでくれていたプーチーさんに頭が下がる。


山奥でぬかるみに取られた。車が動かなくなりうろたえるオレ。
しかしモンゴル人たちは慌てない。そんなものは想定内とばかりに慣れた動作であっという間に解決してくれた。
頼りになるのは己のみ。それがモンゴルで車を運転する者たちのルールである。さすがのJAFもこんな山奥まで助けには来ない。トラブルは自分で解決するしかないのである。


なお、上の文章について、そもそもモンゴルにJAFは存在しないだろボケというツッコミはやめてほしい。
あと、呑気に写真撮ってる暇あるならオマエも手伝えというツッコミはもっとやめてほしい。



車の中でプーチーさんと話していた。
「私、日本の車が大好きです。でも私、日本の車には乗りません」
「何故です、日本の車は高いからですか?」
「えぇ、日本の車、部品が高い」
「部品?」
「モンゴルの道路、道が悪い。部品、すぐ壊れる。
でもロシアの車、部品安い。すぐ交換できる。
だからモンゴルの人たち、ロシアの車、よく乗ります」




気がつくとオレたちの車は、川の中を走っていた。
「あの、日本の車は部品が消耗品じゃないのでそれは仕方ないのでは... あと、
こんな川の中に入ったら部品どうこう以前に車自体が壊れてしまうのでは...

「大丈夫です、これくらい大したことありません」

「大したことあるわ! だいたいな...」
ドーン ←縦揺れの音

「危ないですよ、じっとしてて下さい」
「だからさっき危ないって言ったろ(ToT)」





ダメだ、助からない。縦揺れが襲うたび、オレは身を硬ばらせ恐怖の表情を浮かべていた。
そして一時間後、絶え間なく揺れ続ける車の中で



オレはいびきをかいて爆睡していた。


...
いやー、慣れって怖いわ(意味不明)。







やがて目を覚ますと雨は止んでおり、空はすっかり晴れわたっていた。




雨があがったので乗馬トレッキングを再開する。
途中、草原に一軒のゲルを見かけた。
モンゴルでは道中、ゲルを見かけたらそこに立ち寄らねばならない風習があるらしい。
なので、風習に従いゲルに立ち寄ることにする。


ゲルの主人は突然の来訪者にも嫌な顔一つ浮かべることなく、もてなしをしようと奥に消えていった。
ああ分かってます、分かってますとも。この先に待っているもの、それはきっとアレでしょう?






 馬 乳 酒










やっぱりな(ToT)




え、どうして「やっぱりな(ToT)」なんだって? もてなしをしてくれるモンゴル人に失礼じゃないかって??
おっしゃる通りである。確かにその通りである。だがオレには、モンゴルの乳製品がどうも口に合わないらしい。


乳製品といえば日本では甘い味つけを想像するだろうが、モンゴルの乳製品はとなりの佐藤くんと同じくらい甘くない。
モンゴルの乳製品は発酵させて作っている。そのため酸味が効いており、そして苦い。

だから、日本のイメージでモンゴルの乳製品を口にすると、予想外の味が口の中に広がり、がっかり、戸惑い、そして苦しむこととなる。
分かりやすく説明すると、甘い一夜限りの夢を期待して指名したソープ嬢のミルクちゃんが、実は女の子ではなくニューハーフのミルクちゃんだったと知った時のがっかり感と苦い思いを想像していただければ、イメージがつきやすいと思う。えっ、よけい分かりにくくなった? そりゃどうも。


そして、苦い乳製品よりも甘い乳製品が好みで、ニューハーフのミルクちゃんよりも女の子のミルクちゃんのほうが好みであるオレには、モンゴルの乳製品はどうも口に合わないのである。だが、モンゴル語は読めないが場の空気は辛うじて読めるオレには出されたものを口にしないということができず、「おいしい、おいしい」と涙を流しながら口の中に入れていた。
あの時見せた涙の意味を理解できたモンゴル人は、はたして何人いたのであろうか?




とまぁ、こんな感じでこの日は特に大きなトラブルもなく、無難に乗馬トレッキングが終わった。
しかし、このまま無事に一日が終わるはずもなく、トラブルはキャンプ場に着いた後に待っていたのである。