ホーチミン探訪




あたらしい朝がきた。希望の朝だ。
ここが日本であればこんな歌も歌えることであろう。しかし、残念ながらここは日本ではなくベトナムである。
ちなみにオレのサイトの常連客なら分かるだろうが、しかしオレのサイトの常連客なんて自分くらいしかいない(号泣)だろうからちゃんと説明すると、実はこのネタ、インド旅行記モンゴル旅行記で使いまわしたネタと全く同じである。
いつもならこの後、「このまま何もしないで日本に帰りたい」というオチが続くのであるが、さすがに今回は冗談抜きに本気で何もしないで日本へ帰りたくなった。
ただ不幸なことに今回はツアー旅行ではなく個人旅行であり、今日のホテルすら予約が取れていない状況である以上、何もしないで日本へ帰ることは不可能である(号泣)。
なので気を取り直して外へ出ることにする。

表通りに出てオレはのけぞった。

バイク、バイク、バイク! 洪水のようなバイクの群れが市内の道路をひっきりなしに走っている。
ホーチミンの車道は車優先のためか、歩行者がいても止まってくれない。なので、車道を横切る時はこうしたバイクの河を渡っていかなくてはならない。
当然はねられそうになったことは一度や二度じゃない。いったい何なんだこの街は!

そんなバイクの群れに怯えながらベンタイン市場で買い物したりドンゴイ通りを散策していたりするうちにお昼になった。午後からは中心部から車で20分ほど離れた中華街、チョロンへ向かう予定である。
その前にシンカフェに用があるためタクシーを使うことにした。ヘイタクシー。
「おぅ、兄ちゃん、シンカフェまで行くつもりか。乗ってきな」
「ありがとう、ところで値段はいくら?」
「五万ドンだぜ」

五万ドンー? 1万ドンが100円だから500円ー? ちょっと高すぎない? 市内中心部は一万ドンで行けるとガイドブックに書いてあるんだけど。
何だか昨日の夜とまったく同じような展開だが、目の前にいるのは天下のサイゴンタクシーだ。サイゴンタクシーといえばガイドブックにも信頼できると書かれているタクシー会社だ。そんな会社の運転手がウソをつくとは思えない。
そうだ、やっぱりきっとベトナム でもガソリンが値上げしてタクシー代が高くなったんだ。それでガイドブックが最近の急激な変化についていけずこうして昔の料金を載せているんだ。そうだ、そうに違いない。この期に及んでもまだオレはそんなアマいことを信じていた。

が、それはもろくも打ち砕かれた。



それはシンカフェでの用が済んでチョロンへ向かおうとした時である。オレはタクシーの客引きに捕まった。
彼は自分がヴィナ(やっぱりベトナムの有名なタクシー会社)のタクシーの人間でありチョロンへ行くタクシーを呼んでやると言ってきた。
立派な服にネクタイをして無線で連絡を取り合っている彼の姿は、確かに今まで見てきたインチキそうなタクシーの運転手とは雰囲気が違う。
既にベトナムのタクシーに対して人間不信に陥っていたオレであったが、もう一度だけ彼を信じてタクシーに乗ってみることにした。

「よし、兄ちゃんチョロンまでなら15万ドンだ。あと、運転手にチップとして2万ドン払ってくれ」
「じゅ、15万ドン!? チョロンまでなら5万ドンで行けると書いてあるんだけど」
「ハァ(゚Д゚)? 人がせっかくここまで親切にしてやったというのに、今さら断るつもりかこの野郎」


こうしてまたしても納得できないまま15万ドンを奪われたオレ。がその後、チョロンに着いたオレは驚愕の光景を目の当たりにした。
タクシーメーターを見ると5万ドンと表示されているのである。

「ちょっと運ちゃん、タクシーメーターに5万ドンって出てるじゃん。何が15万ドンするだよ! 大事なお金返してよ!!」
「何いってる、オマエが納得して乗ったんだろ」
「それはアンタたちが15万ドンするって言ったから」
ハァ(゚Д゚)? そんなのオレは知らないな」
「返せ、返せ、オレの15万ドン返せー!」
「おー、ワタシ、英語分ーかりません」

騙された。やっぱりオレは今まで騙されていたんだ。悔しさと怒りでオレは全身を震わせていた。


オレはチョロンにある教会の片隅で一人膝を抱えて泣いていた。
オレが今まで海外で旅行を楽しむことができたのは、一流の旅行会社がスケジュールをお膳立てして、現地の優秀なガイドさんが世話をしてくれたからだったのだ。
それを自分の力などと勘違いして一人旅なんてやってみたが、オレ一人では現地の人との交渉もうまくいかず、慣れぬ街に戸惑い、怯え続け、現地の悪徳ドライバーからは日本人のカモとしていいようにお金をむしられ続けられる、何もできない無力な人間だったのだ。
そんな自分の無力さがみじめで、情けなさで涙を流していた。もう嫌だ、何もかもがもう嫌になった。

ひと通り涙を流してオレは悔しくなった。
このままベトナムにやられっ放しでいいのか? 今このまま日本へ帰ったら情けない日本人として汚名を着たままベトナム人たちの記憶に残ってしまう。嫌だ、そんなの嫌だ。
オレは勝つ、ベトナム人に勝つ、絶対勝つんだー!!


そうやって気合を入れていると一台のタクシーがやってきた。見ていろベトナムのインチキタクシーども。もうオレは昨日までのオレではない。
「おい、そこの運ちゃん、オレを中心街まで連れて行け」
「オーケー、中心街なら10万ドンな」
「うるせー、メーターを使えば5万ドンで行けることをオレは知ってるんだぞ! いいか、メーターを使え、タクシーメーターを使え、ユースタクシーメーター!!」
「お、おっかねーな、何怒ってるんだよ。分かった、メーターを使うから早く乗りな」


勝った、ベトナムのタクシーにはじめて勝つことができた。ベトナム二日目の夕方にしてようやくベトナム人料金でタクシーに乗ることができた。勝利への興奮と達成感で体が打ち震える。
て、あれ? 何かさっきから遠回りしてません? あと、気のせいか同じところをグルグル廻っている気がするんですけど...
「さぁ着いたぞ日本人、7万ドンだ」
「ウソ!? さっき来た時は5万ドンで行けたはずなんだけど」
「何をいう、メーターを使えって言ったのはオマエだろ、さぁ、つべこべ言わず7万ドン払え」


ガーン、またダマされてしまいました。僕はもう日本へ帰りたい(泣)





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