![]() 謎の女性アン |
| 彼女と出会ったのはとあるショップであった。 買いものをしていたところ、突然オレは一人の女性に声をかけられた。 「ヘーイ、アーユーチャイニーズ?」 「いや、日本人だけど」 「ウソー、絶対中国人だと思ってた。ベトナムには何しに来たの?」 「旅行だけど」 「どうして一人でベトナムに来たの?」 「なんで、て言われても特に理由はないけど」 「ふーん、ベトナムにはいつまでいるの?」 「あさってまで」 「いま何やってるの? 学生? 会社員?」 その後彼女は、自分は華僑の流れを組むシンガポール人でベトナムへ一人で旅行していること、友達のつてでシェラトンのホテルに安く泊まっていること、母は 北京に住んでいて今は別れて暮らしていること、これまでアメリカやタイなどいろんな国を旅したことがあるということ、現在はIT企業に勤めていて日本の横 浜でも働いていたことがあるということなどを、延々と英語で話しかけてきた。 が、話の中から彼女の意図がまったく見えてこない。いったい何をしたいというのだ? 10分以上も続く彼女の自己紹介に、いい加減イライラしてくる。 彼女はホーチミンへ来る前にハノイへ行ってきたのだが、そこでガイドブックやカメラをなくしてしまい困っているという。 さては目的はこれだな? 困っている旅行客を演じて「金を貸して」といってそのまま返さずとんずらするつもりか? 頭の中でアラームが鳴り響き警戒態勢を整える。 が、話はそんな方向へ進むことはなく彼女は自分の連絡先を渡してくれた。 「私、日本の人と知り合いになれてよかった。これ、シンガポールの連絡先。シンガポールへ来たら遊びに来てね♥」 そこには彼女の住所、携帯の番号、eメールと彼女の名前が書かれていた。 彼女の名前は「安珍(あんちん)」と呼ぶらしい。 謎の女性改めアンちゃんとコーヒーを飲む。 いつしか彼女とも打ち解けてきて互いの身の上話やベトナムについての話が弾んできた。 彼女はカワイイ系の美人であったが、一人旅をしている人間にしてはどことなく翳のある、怪しげなオーラを醸し出しているように思えた。 そもそも日本では女性などにまるで相手にされる訳もなく、あまつさえ年下の女の子にさえオモチャ扱いされる(号泣)このオレに、親しげに話しかけてくる時点でもう怪しい。日本人と知り合いになりたければもっとイケメン兄ちゃんをあたればいいじゃん。 怪しいといえば他にも怪しいと思う節がいくつかある。例えば ・シンガポール人の英語は早口といわれている。しかし、彼女の英語はオレにも聞き取れるほどスローリーである。 ・彼女はオレより年下であり、身振りから見てもそんなに金を稼いでいるようにも見えない。それなのになんでシェラトンなどに泊まれるほどのカネがあるんだ? 友達のつてと言っているがそれならば友達の家に泊まればいい。 一方、サギ師と呼ぶにはあまりに無防備なところもある。例えば見知らぬ旅行者に自分の連絡先を渡している。これはまぁ偽物である可能性もあるが、自分の顔写真をいとも簡単に撮らせるなど、サギ師にしてはチト無防備すぎないか? こうして彼女が何者か分からぬまま別れのときは訪れ、オレは明日またここでコーヒーを飲もうと約束してその日は彼女と別れた。 ホテルで休んでいたオレはガイドブックを眺めていた。そこに書かれていた「旅のトラブル集」の欄にオレの目は止まった。いわく ・タイ人、シンガポール人旅行客を名乗る女性によるトランプ詐欺が最近はやっています。 ・彼女たちはカタコトの日本語で話しかけ日本人と親しくなりたいと誘ってきます。 ・とにかくカタコトの日本語で話しかけてくる女性には十分注意してください。 ... やっぱり彼女はサギ師なのか? 黒い疑惑が胸をうずまく。 そういえば彼女は明日、オレと同じシンカフェのメコンデルタツアーに参加するといっていた。出発はオレより30分早いようだから少し早めに行ってみようか。 翌朝、出発時間より一時間早めにシンカフェへ行ってみた。が、そこにいるはずの彼女の姿は見あたらなかった。 何ー、そんなバカな!? オレは会社の店員に聞いてみた。 「あのー、すいません。8時からのメコンデルタツアーに安さんという人がいるはずなんですが」 「ちょっと待って下さい。(参加者を調べて)安さんという人は見あたらないのですが」 ... 果たして彼女は本当にサギ師なのか? かくして本来の流れとはまったく関係のないところでオレのベトナム旅行は異様な盛り上がりを見せるのであった。
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