![]() 最終対決 サギ師vsサギ師 |
| 話は前日の夜にさかのぼる。オレはとあるコーヒーショップの前で彼女を待っていた。 「グッドイブニングしゅん、今日はどうだった?」 「もう散々だよアン、アイハブトラブルド」 「えぇ、メコンデルタへトラベルしたんでしょ、で、どうだった?」 「ノーノー、トラベルじゃなくてトラブル。実はオレ、お金をスられちゃったんだ」 オレはウソをつきました。この時の反応を見て彼女がサギ師かどうか判断しようとしたのだ。 さぁアン、これを聞いてどうでる? かわいそうな日本人に同情してカネを貸そうとするのか? それとも金儲けができると言っていかさまカジノへオレを誘うか? 「おー、オーマイゴッド。いま、お金は持っているんですか?」 「あぁ、30ドルだけね。だから今日は安いホテルに泊まろうと思う」 「まぁかわいそう。でも、これもいい経験ですわ。次からは気をつけてくださいね」 「ありがとう。気をつけるよ」 「じゃあ気をつけて。シンガポールに来たら連絡くださいね」 「あぁ、アンも日本へ来たら連絡してね」 「さようなら」 「さようなら」 ... おい、それだけかよ! ウソでもいいからお金貸しましょうかとか言えよ!! こうしてまたしても彼女の尻尾をつかむことはできなかった。 いやちょっと待て、彼女は「日本人と友達になりたい」と言っていたはずだ。そんな友達になりたいはずの日本人が困っている時に救いの手を差し伸べないなんて有り得ない。よってこの時点で彼女は八割方サギ師確定である。 などと思っていたとき、もう一人の自分がオレに語りかけてきた。 「これしゅんや、そんなに人を疑うものではありません」 「だって、金がなくて困っているのにお金を貸してくれないんだぜ。そんなの友達じゃないやい」 「この程度のトラブルだったら大丈夫と思ったのかもしれないじゃないですか? そんなに人を疑うから貴方はこの年になっても彼女のひとりもできないんですよ」 「う、うるさい(号泣)」 結局もう一人の自分に負けたオレは、翌日もう一度仕切りなおして彼女の正体を暴こうとした。 彼女からはベトナムの連絡先を頂いている。しかしこれが本物である保証はどこにもない。万一日本のワン切りサギみたいに変なところにつながり、法外な値段を請求されたらお終いである。 しかし、彼女につながる連絡先はいまこれしかない。さぁどうする? 意を決してオレは、彼女から受け取った電話番号にコールをかけてみた。 案に相違して電話はちゃんと彼女の携帯につながり、電話料金も正規のものであった。不審な点があるとすればただ一つ、現在北京に住んでいるはずの彼女の母親が電話に出たことである。 あれ、お母さん? お母さんですよね? お母さんは今北京に住んでいらっしゃるのではなかったのですか? オレはこの間、他でもない貴女の娘さんから確かにそう聞きましたぜ。 北京に住んでいるお母さんがどうして、ベトナムにいる娘さんの携帯に出ることができるのですか? そんな疑問が当然のごとく浮かび上がるが、それはまぁいいや。 オレはお母さんに自分はアンの友達だと告げて電話を変わってもらい、さっそく彼女に用件を切り出した。 「ハローしゅん、どうしたの!?」 「アン、オレはもっとキミのことを知りたいんだ(キミがサギ師であるかどうかをね、心の声)。今夜、キミと一緒にディナーを楽しみたいけど、どう?」 「まぁ素敵! ありがとう。じゃあ市民劇場で待ち合わせましょう」 「コンチネンタルホテルのすぐ近くだね。分かった、すぐ行くよ」 ふふふ、バカめ、まんまと引っかかりおって。 まずは彼女を引っ張り出すことに成功した。しかし本番はこれからである。向こうもどんな準備をして来るか分からない。気を引き締めていかなければ。 あたりに不審な人間がいないか十分警戒しながら待ち合わせ場所の市民劇場へ訪れる。だが、いくら見てもそこにいるはずの彼女の姿が見当たらなかった。 何ぃ、バカな、そんなバカな? 身の危険を感じて引き返したとでもいうのか!? 近くに彼女がいないか探そうとあたりをうろついていたその時である。オレは突然みすぼらしい姿をした見知らぬ男に声をかけられた。 「あなた、安珍さんのお友達ですか?」 おい、何でコイツそれを知っている!? オレは全身から血の気が引いた。そして動揺を顔に出さないよう注意しながら「いえ、知りませんが」と極力平静に答えた。 彼はオレの答えを無視してオレを彼女の友達であると一方的に決めつけ、自分は安珍が泊まっているホテルのボーイで彼女から伝言を預かったと告げた。 そういえば彼女はシェラトンホテルに泊まっていると言っていたが、ではこいつはシェラトンホテルのボーイであろうか。しかしオレの知りうる限り、シェラトンのボーイにこんなよれたシャツを着ている者がいるなど聞いたことがない。 彼はオレに、安珍は30分後に現れるからまた来てくれとだけ告げてそれ以上は何も言わずに帰っていった。 さぁどうするオレ!? 怪しい、怪しすぎる! 考えてもみてほしい。通りすがりの見知らぬ通行人に「あなたは○○さんの友達ですね」といきなり言われたらどうだろうか? 怖いぞ! でもそこへ行かないと彼女の正体を暴くことはできない。それに彼女がまっとうな女性で、これが元で恋愛関係に発展する可能性も3%くらいはあるかもしれない。 でも、もしワナだったら...ヘタをすると帰りの飛行機に間に合わないどころか生きて日本の土を踏めない恐れもある。 でも、でも。 オレは気を落ち着かせるため何気なく腕時計をいじっていた。すると突然、人形から首が落ちるように、時計のネジがポロリと外れだした。 ... 不吉。 猛烈に嫌な予感がしたオレはそのまま逃げるようにしてその場を立ち去った。 サギだ! これだけ盛り上げといて何だこの結末は! オマエの存在こそサギ師じゃないのか!? カネ返せコノヤロー!! そんな怒りの声が聞こえてきそうである。オレだってこんな結末は納得いかない。でもなー オレだって命が惜しいんだ! あんな怖い目に遭ってノコノコと顔を出せるか! どうしても、ていうのならギャラを出せ! こっちはただの旅行者なんだぞ!! 果たしてアンはサギ師だったのか? 結局その答えを最後まで出すことができないまま、オレのベトナム旅行はこうして幕を閉じた。 そしてオレは思った。 ベトナム来てまでして、オレはいったい何をやっていたんだ? いつしか陽は沈みかけ辺りは夕闇につつまれかけていた。 夕暮れ時のホーチミンの街は何とも言えない哀愁を抱えており、その姿が今まで見たどのベトナム人女性よりも美しく見えた。 そして、それに負けないほどの哀愁を心に抱えながら、オレはホーチミンの街を、ベトナムを後にしたのだった。 ベトナム旅行記
完
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